缶だけレトロな令和モダン│サッポロ サクラビール

スカッとしている。ホップは柔らかく香り、際立つのは軽やかさと透明感。さらさらっと飲める。レトロっぽいデザインの缶から、意外なほどスッキリ爽快なビールが出てきた。歴史の重みが連想させるクラシカルな風味や苦味や深み、そういった要素はほとんど感じない。

以下考察。

サッポロ公式によると、

1912年に九州で創業した帝国麦酒(株)が九州初のビール工場で製造を開始し、アジア各地にも輸出されて世界で親しまれた「サクラビール」を、当社醸造者が当時の文献を読み込んで現代のお客様の嗜好に合わせてアレンジしたビールです。

アジア各地が果たして世界と呼べるのかという指摘はさておき、気になるのは最後の1節。“現代のお客様の嗜好に合わせてアレンジ”とは何たる事か。

サクラビールの醸造開始当時の味わいがどんなものか知らないが、サッポロビールが加えるその現代アレンジとやらが“キレ”とか“喉越し”、“爽快感”といった方向に寄ったものであるなら、私は少し寂しい。

寂しさの根源は、以前にキリンラガーがリニューアルした際にも感じた「日本のピルスナーはアサヒスパドゥワ〜イ!!に引っ張られすぎではないのか?」という根拠の無い懸念である。

確かに日本で一番売れているビールが“現代のお客様の嗜好”の体現であるならばそこへ寄せていくことは理に適ったアレンジであろう。一方でそれを良しとしない私は、マイノリティを自覚しながらも、しかし、やはり寂しいのである。

押し込まれた狭い空間で眉をひそめ、高額納税に報いぬ不遇だなどと囁き合う喫煙者たちと同じ穴の狢な気がして気鬱だが、時代の本流に押し退けられた頑固者が半ば被害妄想的に感じるだけであろう世知辛さから、詮無き不満をぶちまけそうになる。

しかしそういった寂しさも、懸念も、不満もすべて私の憶測上の産物でしかない。本商品に関して言えば、90年の時を越えてその味わいを語る声は無く、いまやサッポロビール以外にその現代アレンジを評価まして批判など出来よう筈が無いのだ。

つまる所このビールは復刻でも復活でも再現でもなく、サッポロビールが繰り出したいち新商品に過ぎない。大正レトロ云々は味に関係しない。その点は公式のニュースリリースや商品説明文の表現にも一定の配慮が敷かれてあるようだ。これから本商品を手に取る諸氏は、どうかその前提をご理解されたい。

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